新生児聴覚スクリーニング

当院は「新生児聴覚スクリーニング後の聴力検査機関」です

1)生まれつきの難聴(新生児難聴

出生した時点で両耳に難聴のある子どもは一千人あたり約1人、片耳に難聴のある子どもも同じかそれ以上います。以前は重度難聴(ほぼ全く聞こえない)で1~2歳、中等度難聴では3~4歳、軽度難聴や片側難聴では小学校就学時までわかりませんでした。生まれてから難聴とわかるまで何年もの間、子どもの生来の性質をわからないまま育てていたことになります。気づかなかった時間は後から取り返すことができません。

2)新生児聴覚スクリーニング(新生児聴覚検査)

生来の性質を早期に理解し、その子に合った育て方をしていくことが、発達を促すことにつながります。そのために新生児聴覚スクリーニング(新生児聴覚検査)が開発され全世界に普及しました。この検査は赤ちゃんがヘッドホンやイヤホンで音を聞いた時に起こる反応を調べる検査で、器械が自動的に判定します。この反応が確認できた場合は「パス」、はっきり確認できなかった場合に「要再検(リファー)」となります。新潟県内ではお産を扱う全ての医療機関で行っており、新生児全員が検査を受けることができます(施設によって検査料金は異なります)。もし退院までに検査をしなかった場合は、出産した施設あるいは市町村の保健師と相談して1ヶ月までにぜひ検査を受けてください。

3)新生児聴覚スクリーニング(新生児聴覚検査)で「要再検(リファー、refer)」と判定されたら

両耳でも片耳でも「要再検(リファー)」の場合は、出産施設から日本耳鼻咽喉科学会による「新生児聴覚スクリーニング後の聴力検査機関」を速やかに紹介してもらい、受診予約をしてください。「要再検(リファー、refer)」は文字通り「聞こえの精密検査が必要」という意味で、「聞こえない、難聴である」と言う意味ではありません。しかし、「要再検(リファー)」の赤ちゃんのうち、半数程度で何らかの聞こえの異常が見つかります(上越地区当院統計)。家庭で特に問題がないように見えても、遅くとも3ヶ月までには聴力検査機関を受診してください。
 産まれてすぐの赤ちゃんが「要再検(リファー)」と判定されると、両親(保護者)は大変不安になるのが普通です。しかし、まず大切なことは赤ちゃんと保護者がが自宅で落ち着いて暮らせることです。哺乳がしっかりできて、元気に動きぐっすり眠れていればあわてる必要はありません。それでも不安、心配が大きければ、家族だけで抱え込まずに聴力検査機関や地域の保健師に相談してください。聾学校や難聴療育施設で相談を行っているところもあります。当院では保護者の不安に速やかに対応するため、できるだけ早く診察をして聴覚精密検査に入ります。新潟県では難聴教育の経験者や言語聴覚士による「NPO法人きこえエール新潟」で相談支援を行っています。

4)新生児難聴の検査

新生児聴覚スクリーニング(新生児聴覚検査)で「要再検(リファー、refer)」の場合、精密聴力検査機関では赤ちゃんの発育状況もみて精密検査を行います。生後6ヶ月までに検査を行い、必要な子どもには補聴器装用などの支援を開始できるように進めていくのが原則ですが、検査状況や発育の状態によっては精密検査の結果が出るまで数ヶ月以上かかることもしばしばあります。軽度の難聴や片側の難聴では特別な配慮が不要なこともありますが、聞こえに変化がないか定期的な確認が必要です。検査については医師の指示に従ってください。

5)新生児難聴と診断されたら

聞こえに何らかの異常がある場合は、右左の別やその程度によって対応は変わります。両耳合わせても周囲の言葉を十分に聞き取れない状態と診断された場合は、補聴器を使って音をしっかり聞こえるようにしながら療育(「療育」は「医療(治療)」「保育」「教育」を混ぜた言葉です)を生後6ヶ月までを目安に始めるのが原則ですが、難聴の原因、発育の状況や家庭の環境によって、一律ではありません。子どもの将来に望ましい方法を個別に考えて進めていきます。
生まれつきの難聴を医学的に治療することは難しいことが多いです。聞こえづらい、あるいは聞こえないことを理解して、各々にあわせて聞こえや生活の補助を行い、まず養育者とコミュニケーションがとれるようになること、そして、言葉やコミュニケーション能力が伸びていくように育てていきましょう。医療機関だけでなく教育・療育機関による指導、相談や行政機関からの支援も重要です。上越地区では、行政、教育、医療の小児難聴担当者が「上越地域難聴児サポートシステム」として定期的に協議し児と保護者を支援しています。

6)障害を持つ子どもを持ち育てることについ

新生児難聴であることは生まれつきの身体障害の一種です。多くの保護者がつらく感じることであり、本人も難聴により生活が不便になることが多いのは確かです。しかし難聴であること、障害を持っていることは決して不幸ではありません。聞こえのことに限らず、子どもの生来の性質を養育者が理解することは子育ての出発点です。早期に難聴を発見することは、子どもを理解し受け入れるための第1歩です。子どもの心と体やその後の人生のことについて、保護者が深く考えることは子どもの幸せにとってはむしろ有意義です。逆に子どもの生来の性質を周囲の人々、特に両親が無視したり否定したりすることが、親子双方にとって最も不幸なことです。無視しても否定しても子どもの人生は続きます。難聴の子どもが家族や社会に認められ、本人の能力を伸ばし、自立して幸せに過ごしていけるようになることが目標です。

(日本耳鼻咽喉科学会聴力検査機関リスト改訂に伴い2020/6/4更新)