子どもの難聴

子どもの難聴の診断とその後の対応を積極的に行っています

1)乳幼児の難聴

出生した時点で両耳に難聴のある子どもは一千人あたり約1人、片耳に難聴のある子どもも同じくらいいます。また、6歳までの乳幼児期に難聴となる子どももいます。幼児期には滲出性中耳炎が原因で聞こえづらくなることも珍しくありません。赤ちゃんから幼児期の耳の聞こえについて、親の観察や乳幼児健診だけで判断することは非常に難しいです。以前は重度難聴(ほぼ全く聞こえない)で1~2歳、中等度難聴では3~4歳、軽度難聴や片側難聴では小学校就学時までわかりませんでした。生まれてから、あるいは難聴となってから難聴とわかるまで何年もの間、子どもの生来の性質をわからないまま育てていたことになります。気づかなかった時間は後から取り返すことができません。

2)新生児聴覚スクリーニング(新生児聴覚検査

生来の性質を早期に理解し、その子に合った育て方をしていくことが、発達を促すことにつながります。そのために新生児聴覚スクリーニング(新生児聴覚検査)が開発されました。新潟県内ではお産を扱う全ての医療機関で行っており、全ての新生児が検査を受けることを推奨しています。退院までに検査を受けなかった場合は、出産した医療機関または地域の保健師に相談してください。

3)乳幼児難聴の検査

新生児聴覚スクリーニング(新生児聴覚検査)で「要再検(リファー、refer)」と判定された場合、あるいは乳幼児期に家庭、保育園、幼稚園などでの様子や健康診断で聞こえやことばの発達の遅れが疑われた場合は、聞こえの検査が必要です。乳幼児難聴の診断は耳鼻咽喉科の中でも特殊な分野で、専用の検査機器と熟練した医療者による判断が必要です。日本耳鼻咽喉科学会による「新生児聴覚スクリーニング後の聴力検査機関」を受診するのが確実です。
 ヘッドホンをつけて音が聞こえたらボタンを押す大人の聴力検査は乳幼児では難しいため、年齢や発育に合った検査を行います。検査時の様子や発育の状態によっては繰り返しの検査やいろいろな検査を組み合わせることもあり、結果が出るまで数ヶ月以上かかることもしばしばあります。また発達に遅れやでこぼこのある子どもの場合は、聞こえの判断はさらに難しいです。軽度の難聴や片側の難聴では特別な配慮が不要なこともありますが、聞こえに変化がないか定期的な確認が必要です。定期検査については医師の指示に従ってください。

4)難聴と診断されたら

難聴ありと診断されても、右左の別やその程度、原因がすぐはっきりとはわからないこともしばしばです。両側の難聴の場合は補聴器を使用することが多いですが、ことばの発達や聞こえ以外の発達の様子によっても対応は変わります。どの方法であっても子どもが聞こえづらい、あるいは聞こえないことを理解して、各々にあわせて聞こえや生活の補助を行い、まず養育者とコミュニケーションがしっかりできるようになることが重要です。そして、言葉やコミュニケーション能力の発達を促すための療育を行います。「療育」は「医療(治療)」「保育」「教育」を混ぜた言葉です。地域によって療育指導を行える施設は様々ですが、いずれにしても家庭、保育園、幼稚園、学校など日常生活の場で継続していくことが大切です。
 生まれつきの難聴を医学的に治療することは難しいことが多いです。外耳道(耳の穴)、鼓膜、耳小骨(鼓膜の奥の小さな骨)の形の異常などでは手術で治療することもありますが、学童期以降となるのが通常です。補聴器装用でも十分な聞こえが確保できない場合には、人工内耳手術を行うことも選択肢になります。

5)障害を持つ子どもを持ち育てることについ

聞こえのことに限らず、子どもの性質を養育者が理解することは子育ての出発点です。難聴により生活が不便になることが多いのは確かです。しかし難聴であること、障害を持っていることは決して不幸ではありません。早期に難聴を発見することは、子どもを理解し受け入れるための第1歩です。子どもの心と体やその後の人生のことについて、保護者が深く考えることは子どもの幸せにとってはむしろ有意義です。逆に子どもの生来の性質を周囲の人々、特に両親が無視したり否定したりすることが、親子双方にとって最も不幸なことです。無視しても否定しても子どもの人生は続きます。難聴の子どもが家族や社会に認められ、本人の能力を伸ばし、自立して幸せに過ごしていけるようになることが目標です。
 上越地区では、行政、教育、医療の小児難聴担当者が「上越地域難聴児サポートシステム」として定期的に協議し児と保護者を支援しています。わからないこと、心配なことなどは遠慮なく当院、あるいは上越市、妙高市、糸魚川市のこども課にご相談ください。

(日本耳鼻咽喉科学会聴力検査機関リスト改訂に伴い2020/6/4更新)